査定士は、品物より先に「持ち込んだ人」を見ています

藍澤和博買取査定の実務経験者
公開日 2026-08-01
この記事の一次体験:2011年から2026年4月まで買取査定の現場にいた運営者(筆者本人)の実務経験にもとづいて書いています。特定の1件の査定を記録したものではなく、査定する側として自分が提示額をどう組み立てていたか、そして目の前のお客さんのどこを見て「どこまで下げられるか」を測っていたかを言語化したものです。本文に出てくる割合(6〜9割、1〜3割など)はいずれも自分の現場での体感であって、業界の統計ではありません。
見られているのは、品物だけじゃないです
先に立場を書いておきます。私は2011年から2026年の4月まで、買取の現場で査定する側にいました。いまは査定からは引退していて本業は物販です。鑑定士みたいな資格は持っていません。国家資格が無い分野なので、ここに書けるのは資格の裏付けじゃなくて、自分が現場でやっていたことだけです。
で、その現場でやっていたことを正直に書くと、査定って品物だけを見て金額を出しているわけじゃないんですよね。
品物だけでなく、目の前にいる人のほうも見て金額を決めています。これを書くとイヤな感じに聞こえるかもしれないんですけど、隠しても読む人の得にならないので書きます。
ちなみにこの割合の話、統計じゃないです。私が現場でやっていた体感の数字なので、そこは先に断っておきます。
提示額は、上から引いて決めている
買取の査定って、足し算じゃなくて引き算です(場合によっては足し算もするんですけど、基本は引き算のほうだと思ってもらっていいです)。
たとえば、うちで売れば30万円になる品物を持って、お客さんが店に入ってきたとします。その人が新規で、こっちにはその人に関する情報が何も無い。この状態でいくらを提示するかというと、提示しても持ち帰られずに、話して納得してもらえる範囲の金額です。店員のリカバリー力にもよるんですけど、感覚としては売値の6割から9割くらいの幅の中で考えることになる。
つまり「この品物はいくらか」を計算しているというより、「30万から、どこまで引いても持ち帰られないか」を探しているんです。その下限を、査定中の会話とか、お客さんの仕草とか、品物の持ち込み方とか、そもそも何を持ってきたかとかから判断していく。
そして残念な話なんですけど、ベテランじゃなくてもある程度経験を積むと、お客さんが店に入ってきた入り方、視線の動き、物腰あたりで、だいたいどのくらいの粗利率で買えそうかが分かってしまいます。品物を出してもらう前にです。
明らかに売り慣れていなくて、会話からも知識が無さそうだと分かる場合、6割どころじゃなくて1割から3割で提示することだってざらにあります。
「騙されないぞ」の顔が、いちばん情報を渡している
ここがこの記事でいちばん書きたかったところです。
売る側の人は、たいてい警戒してお店に入ってきます。安く買われたくないから当然です。ただ、その警戒がおどおどした様子とか不安そうな表情として出てしまうと、査定する側からはこう見えます。
「この人は、騙されないように警戒しているな」と。
そしてそれって、裏返すと「自分は知識がありません」と自分から吐露しているのとほぼ同じなんですよ。守ろうとしている動きが、そのまま情報になってしまうという、なかなかしんどい構造です。
似た話がいくつかあります。
ひとつは、明らかに持ち込んだ本人と年代が違う品物。これが出てくると、もらい物とか譲り受けたものの可能性が高いと考えます。そうすると、もともとの定価も、いまの価値も、本人は分かっていない可能性が高い。
もうひとつが、一度にたくさん持ち込むこと。これは良かれと思ってやる人が多いんですけど、数十点になると、正直こっちも1点ずつ細かく把握するのは無理です。合計金額も大きくなるので、全体として「まあこのくらいで」という、なぁなぁの決まり方になりやすい。逆に言うと、1点ずつ適正な値段で売りたい人は、大量持ち込みをしません。だから点数が多いこと自体が、そういう合図として読まれます。
こういうところ全部が、判断材料になってしまっているんです。お客さんの側からすると、何も喋っていないつもりでも、情報をどんどん提供してしまっている。
査定する側も、外すことはあります
一応、こっちも万能じゃないという話も書いておきます。
どんなにベテランでも、お客さんの希望とかけ離れて安い金額を出してしまって、そのまま持ち帰られそうになることはあります。そうなると内心かなり慌てるんですけど、慌てた顔はしません(落ち着いているふりはします)。そのうえで「すみません、別の商品のデータを見ていました」みたいな理由をつけて、0を一桁増やすようなこともあります。
これ、読む側からすると相当こわい話だと思うんですよね。さっきの金額は何だったんだ、という。ただ実際にそういうことは起きます。
査定士が悪い、という話にはしたくない
念のため書いておくと、これは「業者は敵だ」という話ではないです。
前提として、買取店は仕入れをしないと1円にもならないんですよね。歩合制なら自分の給与に直結しますし、会社によっては成約率が厳しく評価基準になっているので、利益が0になるくらいなら必死に引き留めてでも薄利で買おうとする、ということが起きます(この構造そのものは別の記事で書きます)。
だからここで言いたいのは「悪い人に気をつけろ」ではなくて、構造がそうなっている以上、渡す情報を減らせば結果が変わるということです。そしてこれは、売る側が自分でできます。
一番効くのは、希望額を先に言ってしまうこと
じゃあどうするか。私が一番スムーズだと思っているのは、これです。
店に入って品物を出すときに、「これ売りたいんですけど、○○円になりますか?」と先に言ってしまう。 しかも、相場より少し高めの金額を言う。
これをやると何が起きるかというと、査定する側は「あ、この人は相場をある程度知っているな」と判断します。さっきまで探っていた下限を探す作業が、成立しなくなるんですよ。そうなると向こうも、そこから無駄な問答をする時間がもったいないと感じます。
そうなるとどうなるかというと、たいていの場合「そこまでは出ないですね。うちは○○円が上限です」という返し方になります。つまり、いきなり相手の上限側の数字が出てくる。下から探られるのではなく、上から出してもらえる。
言い方に技術は要りません。少し高めの数字を先に置く、それだけです。金額を当てる必要もなくて、外していても「そこまでは出ません」と言われるだけなので、損はしないです。
点数は、多くても10点まで
もうひとつが持ち込む点数です。多くても10点までにしたほうがいいと思っています。
理由はさっきの裏返しで、点数が少なければ査定の時間そのものが短くなるからです。査定にかかる時間が短ければ、そのぶんこっちから情報を引き出される時間も短くなる。やり取りが長くなるほど、会話から知識の有無が伝わってしまうので。
あと、点数が少ないと1点ずつ金額の根拠を聞けます。数十点の合計で出されると、どの品物がいくらなのか結局分からないままになりがちです。
まとめて処分したい事情がある場合もあると思うので、絶対に分けろとまでは言いません。ただ「全部まとめて持っていったほうが親切だし早い」と思っているなら、そこは逆だと思っておいてください。
私は、駆け引きが下手なほうでした
最後に自分のことを書いておきます。
ここまで散々「下限を探る」と書いておいてなんですけど、私自身はその駆け引きが嫌いでした。だから最初の提示で外さないことにいちばん気を使うタイプだったんです。探るより、先に納得してもらえる数字を出したかった。
その結果どうなったかというと、粗利率はそんなに良くなかったです(笑)。
ただ、だからこそこういう記事が書けるとも思っていて。査定する側にも、私のように探るのが苦手なタイプはいます。それでも、こっちが何も知らない顔で入っていくと、構造のほうが勝手に金額を下げてしまう。そこだけはどうにもならない。
だからせめて、希望額を先に言うのと点数を絞るの2つだけは持って行ってほしいです。この2つは知識も度胸も要らないので。
ちなみに、これ以外に「これは効いた」という持ち込み方があったら聞いてみたいんですよね。売る側の工夫って、こっちからは見えていない部分もあると思うので。どうですか?
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