クーリング・オフの説明がない買取業者に、品物を渡してはいけない

藍澤和博買取査定の実務経験者
公開日 2026-08-01
この記事の一次体験:2026年8月1日に、特定商取引法(昭和51年法律第57号)第5章の2、同法施行令第34条、同法施行規則第1条・第132条から第134条・第149条の各条文をe-Gov法令検索の原文で読み、あわせて消費者庁・経済産業省の通達「特定商取引に関する法律等の施行について」(令和6年11月19日付)の第5章の2(訪問購入)関係と別添10、および訪問購入の逐条解説を突き合わせて書いた記事です。条番号・原文の文言はすべてこれらの一次資料で確認しています。筆者は2011年から2026年4月まで買取の現場で査定する側にいた人間で、業者側の運用として「クーリング・オフの口頭説明をする会社」と「しない業者」の両方を見てきましたが、この記事で法的な結論として書いているのは条文・通達に書かれていることだけです。個別の事案がどう判断されるかは事実認定によるため、断定はしていません。
買う側にいたときの話を、ひとつだけ
私は2011年から2026年の4月まで、買取の現場で査定する側にいました。いまは引退していて、査定はやっていません。鑑定士みたいな資格も持っていないので、ここに書けるのは自分で調べて確かめたことだけです。
それで、内側にいて分かったことがひとつあって。クーリング・オフの説明って、やっている会社とやっていない業者に、はっきり分かれるんですよね。ある程度の規模の会社や、きちんとやっている会社なら、まず間違いなく口で説明します。書面を出しながら「ここ、8日間はキャンセルできますので」と言う。逆に、言わない業者もいます。
で、この記事を書こうと思ったのは、言わない側に当たったときに、売る人が自分で気づける手がかりが要ると思ったからです。
ただ、調べていくうちに順番が違うことに気づきました。「説明があったかどうか」より先に、そもそも目の前のその取引が法律の対象なのかを判定しないと話が始まらない。そこから書きます。
まず、訪問購入というのは何のことか
特定商取引法の第5章の2に「訪問購入」という章があります。定義は第58条の4です。原文はこう。
この章及び第五十八条の二十四第一項において「訪問購入」とは、物品の購入を業として営む者(以下「購入業者」という。)が営業所等以外の場所において、売買契約の申込みを受け、又は売買契約を締結して行う物品…の購入をいう。
要するに、買取業者が「営業所等」以外の場所で買い取ることです。自宅に呼んで査定してもらうのが一番わかりやすい形ですね。
この章に当てはまると、業者側にいろんな義務がかかります。書面を出す義務、クーリング・オフを認める義務、品物を渡さなくていいと告げる義務。全部この章の中にあります。
逆に言うと、「営業所等」に当たる場所での買取なら、この章はまるごとかからない。だから「営業所等かどうか」が最初の分かれ道になります。ここは後でじっくり書きます。
対象から外れている品物は、たった6つ
先に品物の話を片付けておきます。訪問購入は原則として全部の物品が対象で、そこから政令で穴を開ける形になっています。その穴が施行令第34条で、中身は6つだけです。
| 政令34条の号 | 除外される物品 |
|---|---|
| 一 | 自動車 |
| 二 | 家庭用電気機械器具(携行が容易なものを除く。) |
| 三 | 家具 |
| 四 | 書籍 |
| 五 | 有価証券 |
| 六 | レコードプレーヤー用レコード及び磁気的方法又は光学的方法により音、影像又はプログラムを記録した物 |
見てのとおり、ブランドバッグも、貴金属も、宝石も、時計も、着物も、切手も、この6つに入っていません。つまり買取のトラブルで一番よく出てくる品物は、まるごと守られる側にいます。ここ、あんまり知られていない気がします。
通達の別添10に具体例が並んでいて、そこで押さえておきたい点が3つありました。
ひとつめ。二輪は除外から外れます。 別添10の1番は「自動車(二輪のものを除く。)」となっているので、バイクの訪問買取は規制の対象です。
ふたつめ。「携行が容易」かどうかの判断基準が通達に書いてあります。 「購入業者が当該物品を売買契約の相手方の自宅等から引き取る際に、搬送要員等特段の準備を要することがあるか否か」で判断する、と。だから冷蔵庫やエアコンは除外でも、スマホやノートパソコンやカメラは一人でひょいと持って帰れるので、規制の対象側ということになります。
みっつめ。骨とう品や収集品は、除外から戻ってきます。 通達の原文がこれです。
なお、骨とう品又は収集品として取引されるような物品(例えば、新品であった場合の販売価格以上の金額で取引されるような物品)については、政令第34条各号に掲げられている物品に分類される可能性がある物品であっても、骨とう品(日本標準商品分類上の分類コード943)又は収集品(同分類コード942)として規制の対象に置かれる、と解する。
古い家具でも、古いレコードでも、骨とう品・収集品として取引されるものなら対象に戻る。定価より高く取引されるようなものはそっち、という書き方になっています。
ここが本題。催事の買取は規制の対象なのか
さて、さっきの「営業所等」です。
ホテルの宴会場とか、公民館とか、期間限定でやっている買取の催事。あれって店舗なのか、それとも訪問購入なのか。ここが分からないと、クーリング・オフがあるのかどうかも分からないんですよね。
答えの根っこは施行規則第1条にあります。訪問購入でいう「営業所等」は、この条の第1号から第3号まで、第5号及び第6号です(第4号は販売のほうの規定なので、訪問購入では使いません)。
- 一 営業所
- 二 代理店
- 三 露店、屋台店その他これらに類する店
- 五 前三号に掲げるもののほか、一定の期間にわたり、購入する物品の種類を掲示し、当該種類の物品を購入する場所であつて、店舗に類するもの
- 六 自動販売機その他の設備であつて、当該設備により売買契約又は役務提供契約の締結が行われるものが設置されている場所
催事に当たるのは第5号です。で、この第5号が具体的に何を指すのかを、通達が3つの要件に分解してくれています。第5章の2(訪問購入)関係1(2)(ハ)の原文がこれ。
省令第1条第5号の「一定の期間にわたり、購入する物品の種類を掲示し、当該種類の物品を購入する場所であつて、店舗に類するもの」は、これら以外の比較的短期間に設定されるものを念頭に置いており、①最低2、3日以上の期間にわたって、②売買契約の相手方がどの物品を売却するか、また物品を売却するか否かを自由に選択できる状態の下で、購入業者が何を購入しようとしているのかが外形上明確であるように購入する物品の種類を掲示しており、③展示場等購入のための固定的施設を備えている場所で購入を行うものをいう。
整理するとこうです。
| 要件 | 現場で見るところ | |
|---|---|---|
| ① | 最低2、3日以上の期間にわたること | 今日1日だけの開催になっていないか |
| ② | 買い取る物品の種類が掲示されていて、売る側がどれを売るか・売るか否かを自由に選べる状態であること | 「何を買い取るか」が外から見て分かるように出ているか。断りづらい流れになっていないか |
| ③ | 展示場等、購入のための固定的施設を備えていること | 腰を据えた設備があるか |
3つ全部そろえば「営業所等」=店舗と同じ扱いで、訪問購入の規制はかかりません。逆に、1つでも欠けたら訪問購入としてフルに規制がかかります。
そして大事なのは、通達が場所の種類で線を引いていないことです。続きの原文がこれ。
具体的には、通常は店舗と考えられない場所であっても、実態としてしばしば商品の展示と併せて物品の購入が行われている場所(ホテル、公会堂、体育館、集会所等)で前記3要件を充足する形態で購入が行われていれば、これらも…での購入に該当する。
ホテル・公会堂・体育館・集会所は例示であって、「ホテルなら店舗」という話ではないんです。あくまで3要件を満たしているかどうか。だから同じホテルの一室でも、1日だけの開催なら①を欠くことになります。
分からなかったことも書いておきます
ここは正直に書きます。スーパーの軒先とか、ショッピングセンターの一角といった具体的な形態について、名指しで「これは営業所等に当たる/当たらない」と示した公式のQ&Aや裁判例は、探しましたが見つけられませんでした。
見つけられなかった以上、私の側から「あれは規制対象です」とも「対象外です」とも言えません。最終的には個別の事実認定になります。
ただ、ここまでで確実に言えることがひとつあって。「催事だからクーリング・オフはない」は、当然には成り立たないということです。3要件を満たしていなければ、それは訪問購入です。だから「催事なのでクーリング・オフはありません」と言われたときに、そのまま引き下がる必要はない。少なくとも「これ、何日間やってるんですか」とは聞けます。
露店・屋台・トラックは、期間の要件がない
もうひとつ、混ざりやすいところを分けておきます。第3号の「露店、屋台店その他これらに類する店」には、期間の要件がありません。通達の同(ロ)がこう書いています。
また、売買契約の相手方がどの物品を売却するか、物品を売却するか否かを自由に選択できる状態の下で、購入業者が何を購入しようとしているのかが外形上明確であるようにバス、トラックに購入する物品の種類を掲示しているものであれば、「その他これらに類する店」に該当する。
なので、買い取る品目を掲示したトラックでの買取は、1日だけでも第3号の「営業所等」になり得ます。「短期=必ず訪問購入」ではない、というところは押さえておいてください。
説明がない業者に渡してはいけない、いちばんの理由
ここからが実利の話です。
訪問購入に当たる場合、業者には書面を出す義務があります。申込みを受けたときが第58条の7第1項、契約したときが第58条の8です。書く中身は法律に6項目、施行規則第132条にさらに8項目あって、業者名・住所・電話番号・担当者名・物品の特徴・型式まで書かせる作りになっています。
そして書式にも規制がかかっています。
- 施行規則第133条2項:書面には書面の内容を十分に読むべき旨を、赤枠の中に赤字で記載する
- 施行規則第134条2項:クーリング・オフに関する事項と、物品の引渡しの拒絶に関する事項も、赤枠の中に赤字で記載する
- 施行規則第133条3項:日本産業規格Z8305に規定する8ポイント以上の文字と数字を用いる
つまり、赤枠・赤字がどこにも無い書面は、その時点で規則の要求を満たしていません。
で、ここからが本丸です。クーリング・オフの8日間は、書面を受け取った日から起算します(第58条の14第1項ただし書)。ということは、書面が無ければどうなるか。通達がはっきり書いています。
したがって、購入業者がこれらの書面を交付しなかった場合は、クーリング・オフをすることができなくなるまでの8日間の起算日が到来せず、クーリング・オフできる期間が継続することになる(すなわち、クーリング・オフをする権利が売買契約の相手方側に留保されていることになる。)。 また、これらの書面に重要な事項が記載されていない場合も、同様にクーリング・オフできる期間が継続することになると解される。特に、クーリング・オフができる旨が記載されていない等クーリング・オフに関する記載事項が満たされていない書面は、法第58条の14第1項にいう法第58条の7第1項又は第58条の8第1項若しくは第2項の書面とは認められない。
8日間のカウントが、そもそも始まらない。 これが効きます。書面をもらっていない、あるいは書面にクーリング・オフのことが書かれていないなら、何ヶ月経っていても解除できる、という理屈になります。「もう8日過ぎましたよね」と言われても、起算日が来ていないんだから8日も過ぎていないわけです。
だから売る側がやるべきことは、シンプルにひとつ。もらった紙を捨てないこと。 そして紙をもらえなかったなら、そのこと自体が後で効く事実になります。
書面の不交付・記載不備・虚偽記載には罰則もついていて、第71条1号で6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科あり)。法人については第74条3号の両罰規定で、法人にも各本条の罰金刑が科されます。義務の条は第58条の7・第58条の8、罰則の条は第71条。別の条なので、片方だけ引くと不正確になります。
ただし「口で説明しなかったから違法」とは、条文上は言えない
ここは混ぜてはいけないところなので、正確に書きます。
「クーリング・オフを口頭で説明しなかった」こと自体を直接の要件にした条文は、訪問購入の章にはありません。 クーリング・オフ期間の起算は、あくまで書面の交付と、その記載内容で決まります。
口頭で告げる義務が条文に明記されているのは、私が読んだ限り2箇所でした。
- 法第58条の9。品物を直接受け取るときに、引渡しを拒めることを告げなければならない。これは口頭でも書面でもいい「告知」の義務です
- 施行規則第149条5項。クーリング・オフを妨げられた後に業者が交付する書面について、「直ちに申込者等が当該書面を見ていることを確認した上で」記載内容を告げなければならない
なので、この記事のタイトルは法的な断定ではありません。「説明しないことが違法だ」ではなくて、説明しない業者は、書面のほうもちゃんとしていないことが多い。だから渡さないほうがいい、という順番です。読者が確認すべきなのは口頭説明の有無そのものより、紙が出てきたか、その紙に赤枠赤字があるか。そっちです。
いちばん強いのは、渡さないこと
これは知っておくと本当に効くと思うので、独立して書きます。
第58条の15。
申込者等である売買契約の相手方は、前条第一項ただし書に規定する場合を除き、引渡しの期日の定めがあるときにおいても、購入業者及びその承継人に対し、訪問購入に係る物品の引渡しを拒むことができる。
「引渡しの期日の定めがあるときにおいても」の意味を、通達がこう説明しています。
当事者間で特約がある場合であっても、法第58条の15が強行規定としての効力があることを示すものである。
つまり、契約書に「本日引き渡すものとする」と書いてあっても、それを理由に引渡しを強制されることはない、ということです。クーリング・オフ期間中は、契約したあとでも品物を手元に置いておける。
そして業者には、この権利を告げる義務があります。第58条の9。
購入業者は、訪問購入に係る売買契約の相手方から直接物品の引渡しを受ける時は、その売買契約の相手方に対し、…当該物品の引渡しを拒むことができる旨を告げなければならない。
だから、これがそのまま使えます。「引渡しを拒めます、と言われましたか?」 言われていないなら、業者は第58条の9でやることをやっていない可能性がある。この告知義務違反は罰則ではなく、主務大臣の指示(第58条の12)や業務停止命令の対象になっています。
ひとつだけ、正確に書いておくべきことがあります。渡さないでいると、代金も後になります。 通達にこうあります。
なお、売買契約の相手方が物品の引渡しを拒絶した場合、特約がない限り、同時履行の抗弁権によって購入業者は売買契約の相手方からの代金請求を拒むことができる。
引渡しを拒んでも債務不履行にはならない。でも、そのぶんお金も同時には受け取れない。ここはトレードオフです。ただ、渡さなければ転売もされないし、8日間まるまる考えられる。私はこっちのほうが強い手だと思っています。
渡してしまった後でも、まだ打てる手がある
もう渡してしまった、というときの話です。
クーリング・オフは発信主義です。 第58条の14第2項がこれ。
申込みの撤回等は、当該申込みの撤回等に係る書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる。
出した時点で効きます。 相手に届いた時ではなく、出した時。だから8日目に出したなら、業者が受け取ったのが9日目でも間に合っています。方法は書面または電磁的記録。出した記録が残る形にしておくのが大事です。
そのうえで、こうなります。
- 損害賠償も違約金も請求できない(第4項)。「キャンセル料」を取られる筋合いはありません
- 代金を返すのにかかる費用と利息は、業者の負担(第5項)
- これらに反する特約で、売る側に不利なものは無効(第6項)
転売されていた場合も、まだ終わりではありません。第58条の14第3項。
申込者等である売買契約の相手方は、第一項の規定による売買契約の解除をもつて、第三者に対抗することができる。ただし、第三者が善意であり、かつ、過失がないときは、この限りでない。
そして通達が、このただし書について重要なことを書いています。
売買契約の相手方からの第三者への物品返還請求に対し、善意無過失の第三者が抗弁できるための規定であると同時に、立証責任を第三者に転換したものである。
「知らなかったし過失もなかった」を証明するのは、第三者の側です。しかも通達は、「購入を業としている第三者が、訪問購入を業としている従来からの取引先である売主から物品を購入するような場合には、当該物品がクーリング・オフされるかもしれないという予見可能性が発生し」とまで書いている。業者間で回った品物は、そう簡単に善意無過失にはならない、ということですね。
さらに、業者側には通知の義務が2つあります。
- 第58条の11:第三者に品物を引き渡したときは、その旨と主務省令で定める事項を、遅滞なく売った本人に通知しなければならない
- 第58条の11の2:第三者に引き渡すときは、クーリング・オフされた旨または解除されることがある旨を、その第三者に通知しなければならない
なので「どこに売ったか教えてください」は、お願いではなく法律上の請求です。ここは強く出ていい。
そもそも呼んでいない訪問なら、それ自体が違反
順番が逆になりましたが、入口の話も書いておきます。第58条の6第1項。
購入業者は、訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘の要請をしていない者に対し、営業所等以外の場所において、当該売買契約の締結について勧誘をし、又は勧誘を受ける意思の有無を確認してはならない。
いわゆる不招請勧誘の禁止です。訪問販売にはないのに訪問購入にだけある、かなり強い規制です。
で、この「勧誘の要請」をどう読むかを通達が書いていて、ここが実務的にいちばん効きます。
他方、相手方が購入業者に単に査定のみを依頼した場合は、「勧誘の要請」があったとはいえない。また、一般的な事項に関する照会や資料の郵送の依頼等があったことをもって「勧誘の要請」があったとすることはできない。購入業者から電話をかけ、訪問して勧誘を行ってよいか否かを積極的に尋ねて相手方から「勧誘の要請」を取り付けるような場合も同様である。
「査定だけお願いします」で呼んだなら、それは勧誘の要請ではない。 ここは大きいと思います。それと、業者のほうから電話してきて「伺ってもいいですか」と取り付けるのも要請にはならない。
さらにこれ。
ある特定の物品について相手方から勧誘の要請を受けて訪問する場合であっても、その他の物品について勧誘をすること又は勧誘を受ける意思の有無を確認することは禁止される。
着物の話で呼んだのに指輪の話を始めるのは、この規定に触れます。国民生活センターに寄せられている相談も、まさにこの形が並んでいるんですよね。
一度断ったら、その種類ごと断ったことになる
第58条の6第3項が再勧誘の禁止です。
購入業者は、訪問購入に係る売買契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、当該売買契約の締結について勧誘をしてはならない。
この「当該売買契約」の範囲について、訪問購入の逐条解説がこう書いています。
ある時計の売買契約の締結について勧誘している場合に、「時計は売りません。」という意思表示がされた場合は、その際に勧誘している特定の型式の時計のみならず、相手方の持つ時計全般について広く売買契約を締結しない旨の意思が表示されたものと解され、金のネックレスの売買契約の締結について勧誘をした際に、「うちは貴金属は売りません。」という意思表示がなされた場合には、そのネックレスのみならず、貴金属全般について売買契約を締結しない旨の意思が表示されたと解される。
「この時計は売りません」ではなく「時計は売りません」と言えば、持っている時計全部について断ったことになる。そして禁止される範囲もこう書かれています。
「勧誘をしてはならない」とは、その訪問時においてそのまま勧誘を継続することはもちろん、その後改めて訪問して勧誘することも禁止されるという意味である。同一会社の他の勧誘員が勧誘を行うことも当然に禁止される。
後日の再訪もダメ、担当者を替えて来るのもダメ。ここまで書いてあります。
ただし、「今は忙しいので後日にしてほしい」のような、その場その時点での拒絶にとどまる言い方だと、日を改めての勧誘までは止められない、とも書かれています。断るなら**「売りません」と言い切るほうが強い**、ということですね。
「見積りに来てほしい」は、請求には当たらない
適用除外の線引きも、間違えやすいので書いておきます。第58条の17第2項1号で、「その住居において売買契約の申込みをし又は売買契約を締結することを請求した者」に対する訪問購入は、書面交付やクーリング・オフの規定の適用から外れます。
でも、この「請求」のハードルは低くありません。通達を読むとこうなっています。
- 請求に当たる例:「いくらでも良いので、当該物品を買い取ってほしい。」/事前に価格を聞いていて「あの価格であれば売りたいので来訪されたい。」
- 請求に当たらない例:「見積りをしてほしいので来訪されたい。」と、明確な取引意思を持たないまま契約準備に当たる行為のために来訪を求めた場合/訪問購入の方法についての単なる問合せや資料の郵送を依頼したら業者から訪問を申し出られて承諾した場合
**「査定だけお願いします」「見積りだけ見たいです」で呼んだなら、適用除外にはならない。**つまり書面交付義務もクーリング・オフも生きています。ここを「あなたが呼んだんだから対象外です」と言われたら、それは違うと思っていい。
なお、この適用除外に当たる場合でも、第58条の6第2項(勧誘に先立って勧誘を受ける意思を確認する義務)と第3項(再勧誘の禁止)は適用される、と通達に明記されています。
困ったときの窓口
制度の話が長くなったので、実際の出口を置いておきます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)。最寄りの消費生活センター等につながります
- 消費者庁の情報提供フォーム:特定商取引法違反行為の情報提供
数字も見ておきます。国民生活センターの訪問購入(各種相談の件数や傾向)のページ(2026年7月31日更新)に、PIO-NETに登録された相談件数が載っています。
| 年度 | 2023 | 2024 | 2025 | 2026 |
|---|---|---|---|---|
| 相談件数 | 8,623 | 7,909 | 7,523 | 826(前年同期 823) |
集計基準を必ずセットで見てください。**この件数は2026年5月31日現在の数字で、消費生活センター等からの経由相談は含まれていません。**2026年度の826件は年度途中の途中経過なので、前の年度と並べて「減った」と読んではいけない数字です。同じページに載っている前年同期が823件なので、いまのところ横ばい、というのが読める範囲でした。
そして同じページの「最近の事例」に並んでいるのが、こういう相談です。
「不用品を引き取る」と電話があり、洋服を出そうと来訪を承諾した。来訪した担当者に「貴金属はあるか」「宝石はあるか」としつこく聞かれ、貴金属を強引に買い取られてしまった。
洋服の話で呼ばれて貴金属の勧誘をされている。まさに、さっき書いた第58条の6第1項の話ですよね。
売る前に、私なら見るところ
条文を並べただけだと使えないので、順番にしておきます。
- **その場所は何日やっているか。**1日だけの開催なら、施行規則第1条5号の①を満たしません。3要件のうち1つでも欠けたら、それは訪問購入です
- **買い取る品目が掲示されているか。何を売るか自分で選べる状態か。**②の中身はこれです
- **紙が出てきたか。赤枠の中に赤字があるか。**無ければ8日間の起算日は来ていない可能性がある。もらった紙は捨てない
- **「引渡しを拒めます」と言われたか。**第58条の9の告知義務です。言われていないなら、そこは聞いていい
- **その日は渡さない。**第58条の15は強行規定です。代金も同時には受け取れませんが、渡さないという選択肢が法律上ちゃんとある
最後にもう一度だけ書いておくと、この記事に書いたのは条文と通達に書いてあることだけです。目の前のその取引が規制の対象かどうかの最終判断は、その場の事実をどう見るかによります。だから「違法だ」と決めつけるためではなく、「これ、確認していいところだな」と気づくために使ってもらえたらと思っています。
条文は自分でも読めます。特定商取引に関する法律の第58条の4から第58条の17まで、施行令の第34条、施行規則の第1条と第132条から第134条。通達は消費者庁の特定商取引法のページから「特定商取引に関する法律等の施行について(通達)本文」で開けます。私が読んだのもこれです。
書き漏らしているところ、ありますか?
更新履歴
- 特定商取引法第5章の2・施行令・施行規則の条文と、令和6年11月19日付の通達および別添10を原文で確認して公開。催事買取の扱いについては、施行規則第1条5号の3要件を示した通達の記述までを根拠として書き、スーパーの軒先やショッピングセンターの一角といった具体的な形態を名指しした公式の見解や裁判例は見つけられなかったため、その旨を本文に明記した
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